マンションリノベーションを考えるとき
この記事は、2023年7月11日に公開したブログのアーカイブ記事です。
執筆:杉山幸治(株式会社SOWAKA・一級建築施工管理技士)
名古屋市や尾張旭市周辺でリノベーションを通じて暮らしの提案をしているSOWAKAの杉山です。
弊社が設立された2009年頃にリノベーションといえばマンションの大規模リフォームのことを指していたと記憶しています。
バブル崩壊後に日本経済は低迷し始める訳ですが、作ったものはメンテナンスをしなければならず、バブル期の様に建て直せばいいじゃん!という発想ではなく以前のような元気が日本には無かったことから部分的に建物を直すという発想が「リフォーム」というキーワードで全国を駆け巡り2000年頃から住宅リフォームがブームとなりました。
ちなみに、「リフォーム」というのは英語に直訳すると「衣類のほつれを修理する」という意味。
ブームは5年ほど続き、成長期から成熟期を迎え「猫も杓子」もという表現で表したいほど少しでも建設業に関わっている業種(建設会社、職人、メーカー、商社)までリフォームをやっています!ってチラシや看板、名刺に書いていた時代でした。
実は、この時期に「猫も杓子」もリフォーム屋さんとして一般のお客様から工事を請け負うスタイルに変更をしようとしたため価格破壊が起きて今日の「職人不足」の発端にもなっています。
冒頭から脱線をしてしまいましたが、まだ続きがあるので付き合ってください。
リフォームを牽引していたのは経営コンサルタントで、対象は建設会社や工務店であったり職人でした。
ただ、リフォーム成熟期に入った時にトラブルやクレームの多さから業界を去る人も続出し、そこに目を付けたのが不動産業界の人たちでした。(もしかしたら、これも経営コンサルタントによる手引きだったのかもしれませんね)
現在ほど「空き家問題」が顕在化してはいなかったのですが、その空き家を売れる商品にリフォームをして中古物件として販売をすることに力を入れていき、その名称が「リノベーション」でした。
弊社も設立当時はリノベーション=マンションの大規模リフォームという認識だったので、戸建ての大規模リフォームについては「リファイニング」と呼んでいました。
そして、リフォームというのは現在と同じ認識なのですが、トイレやキッチン等の取替えや壁紙の張替え、外壁の塗り替えというメンテナンス作業を指していました。
だから、リフォーム会社とリノベーション会社の特徴としては・・・
リフォーム会社:工務店、職人、メーカー
(成長期は郊外都市が中心)
リノベーション会社:不動産会社、建設会社、内装会社
(成長期は東京が中心)
じゃあ、なぜ不動産会社はマンションリノベーションに注目したのか。
簡単な話ですが、一番有力なのは東京に戸建てが少ないから。
一般社団法人リノベーション協議会という組織があります。
弊社も昨年まで加盟していましたが、社名変更をする時にコロナ禍で協議会が活動をしていなかったのもあり脱退しました。
会員や協力している企業を見るとやたら不動産会社が多い。
そして、商圏の違いがあるので当然ですが、全て東京が中心。
CMとかに出てくる企業ばかりですもん。
名刺交換をしてみたかったですよ(笑)
都市部の古くなったマンションの「資産価値を高める」ためのリノベーションをしてオシャレなリノベーション済マンションだと大人気ですもん。
大当たりだったと思います。
ちなみに、「リノベーション会社」ってどういう構図かといえば・・・
・不動産会社の中に不動産部署と建設部署、設計事務所があって登記から引越しまでワンストップでできる会社
・不動産会社が元請け事業者として建設会社と設計事務所に依頼してアウトソーシングしながらワンストップで管理をする会社
・建設会社や工務店などが物件を持っているお客様に対して設計施工をする形態の会社。 不動産は扱わない。(弊社がこのパターンですね)
あれれ???
リフォーム会社に比べてリノベーション会社ってのは「職人」や「メーカー」が参入していないのは何故?って気づきませんか?
これは、法律上の問題があるから業者の数が少なくなるんです。
建設業法という法律があって、県知事や国土交通大臣の営業許可が無いと500万円以上の工事を請け負ってはいけないことになっています。
県知事の許可が「一般建設業」、国土交通省の許可が「特定建設業」となっていて、一般建設業の場合はその許可を受けた県内のみでの営業しかできず、他県でも営業をする場合や請負額が4,500万円位から7,000万円位の工事規模を超えるものを受注する場合は「特定建設業」の許可が必要。
建設業には大工、防水、左官、など29種類の業種に分けられていて、許可を受けた営業種目によってはリノベーションを請け負うことができないんです。
また、この建設業許可を取得するにはそれまでの経験や取得するための費用・・など結構大変。
だから、今までリフォーム工事は請け負うことができた人たちもリノベーションは請け負うことができない現象が発生しています。
そして、不動産会社や建設会社の様に体力のある会社は資格のある人材を引っ張ることができたり、M&Aをしてすぐに許可を取得してしまうのですが、規模的に職人集団の会社だとリノベーションに進みたくても進むことができない理由があるんです。
なんだかな~ って感じですよね。
でも、昨日までバーテンダーをしていた人が今日からリノベ会社をやってます!って言われてもお願いしたくないですもんね。
そして、やっと本題のマンションリノベーション。
お待たせしました。
リノベーションとマンションの関係は前述したとおりですが、不動産会社は建設会社ではないので建設の難しいところが少ない方がトラブル回避できます。
例えば、木造戸建ての場合は古いとシロアリ被害などで柱や梁という構造を触らざる得ない事態があります。
それに対して、マンションはコンクリートの箱の中を触るだけなので色々な法律も絡まず内装工事だけで終わらせられる。
また、木造や軽量鉄骨造の間取りを変えるには設計力がとても大事となるのに対して、マンションの場合はその空間に柱が無いことが多いのでデザイン力が大事。
要は設計的な不測の事態が少なくて済む(リスク回避ですね)
これは、購入する側(お客様)にとってもメリットでもあり、建物の不具合で計画時よりも費用がかかってしまったというのを避けることができ、追加費用の心配をしなくて済みます。
では、個人的な話になりますがどんな会社が良いと思いますか??
私は愛知県だと
・エイトデザイン
・アネストワン
センスが良くて好きです。
エイトデザインは男らしく、力強く。
アネストワンは女性的な感じで素材の良さを引き出していて、マルシェとかが好きな方だとピッタリかもしれませんね。
この2社、不動産会社出身ではないんですよ。
愛知県だからなのかもしれませんが、2社共にリフォーム業界からの転身で、デザイン力は日本のリノベーション業界を牽引しているレベル。
私が生粋の建設畑からこの業界にいるので、やはり不動産会社より建設業の仲間の方が好き(笑)
建設の技術と設計力で勝負している人からすると、不動産売買で利益出して建築リノベーションの方を安く出してこられたら相見積りで比較するお客様が判断できなくなるから好きではない。
だからこそ、こういう愛知県のリノベーション会社は設計力やデザイン力が高いんだと思う。
新築を購入してすぐにリノベーションをする人は一般人ではないので、いないと仮定したとしてリノベーションをするマンションの築年数は10年位~45年位です。
・築年数が古ければ中古物件価格も安くなる(銀行の担保価値も低くなるから要注意
・駅からの距離など環境によっても価格が異なる
例えば、35歳の方が築30年のマンションを中古で購入したとします。
65歳になった時に、そのマンションは築60年となります。
新築でそのマンションを購入した人はもう他界して、代替わりや中古で購入した人たちばかりの住民になっていることと思います。
30年経てば環境も住民も変わってきますよね。
でも、そもそもがどういうマンションを買ったらいいのか分からないですよね??
マンションを長持ちさせるコツは、住民がそのマンションに愛着を持っているのかで大きく変わります。
マンションに住むということはその建物で暮らしている住民で構成されている管理組合に加入することが求められ、管理費を2万円から3万円毎月支払うこととなる。
「家賃と変わらない金額でマンションが買えます!」に騙されちゃダメですよ?
その管理費はマンションを維持する為に修繕工事積立金となっていたり、清掃費、共用廊下等の電気代とかになっています。
だから、アットホームや折り込みチラシ等でいい物件を見つけたら見に行きましょう!
そして、見るコツとしては・・
・エントランスや駐車場、共用廊下が汚れていないか
・見た目が汚い、修繕(メンテナンス)をちゃんとやっていない感じではないか
・マンション周辺の植栽が手入れされているか
この3点を見るのは簡単だと思います。
共通して言えることは、そのマンション管理組合にお金があるのか、無いのかが分かるということ。
いくら駅前のマンションだったとしても、極端な話をすると100戸中99戸が管理費を支払っていなかったら修繕することなどできない訳だから管理組合が破綻してしまいますよね?
実は、購入を決定する前に不動産会社経由で管理組合に対して財務について聞くことは違法ではないんです。
むしろ、開示しなければ購入側の利益を奪うこととなるかもしれない。
不動産というのは好き嫌いとかの個人的な価値観ではなく、地理的な優位性や健全であるかどうかの市場価値と売買価格のバランスがしっかり反映されていないといけないと思います。
だから、リノベーションをすれば不動産価値が上がるっていうのはちょっと懐疑的で、デザインに拘れば拘るほどマイノリティだと思う。
要は個人的な価値。
偶然にも同じ価値観の購入者が現れればすぐに売却できるとは思うけど、流行りを追い求めてデザインをすると数年後には自分も飽きるし、購入者も現れない可能性もある。
まぁ、そんなに家をすぐに売買するようなものじゃないけど(笑)
あと、色々なマンションで工事を行っていて発見したのですが、マンションにはそのマンションならではの世界、道徳観などのルールがある。
とても分かりやすいのが「あいさつ」です。
私たちは下請け業者さんを含めてなるべく挨拶をする様にしていますが、返してくれるマンションだとほとんどの住民の方が返してくれる。
逆に挨拶を返してくれないマンションだと、ほとんどの住民の方が返してくれない。
切なくなりますよね。
あとは、タワーマンションなどではよくあるのですが、管理人が走ってきて住民と一緒にエレベーターに乗ってはいけないと叱られてしまったり、ホント色々です。
挨拶をしたくない人も居ると思うし、優越感が好きな方もいると思う。
自分がどういう暮らしをしてどうありたいかだと思う。
その基本が違う場所で生活するってのは辛いと思う。
中古物件を内覧する際に住民の方が居たら「あいさつ」をしてみるといいかも。
とても親切な人もいれば、その逆の人もいる。
築年数が古くなればなるほど、住民同士の結束が希薄になってくるし高齢化が進んでくる。
そこに若い家族が引越してくればお互いが怖いので「あいさつ」がとても重要になってくるかもしれませんね。
これは戸建てでも同じことではあるのですが、ニュータウンやマンションというのは新築の状態を一斉に購入するので、築年数が新しければ住民も若く、古ければ高齢の住民が多くなるものです。
マンションは別名「集合住宅」なので、住民が助け合いながら暮らしていけると本来はいいですね。
施工会社は戸建てリノベーションよりマンションリノベーションの方が大変!
エレベーターや共用廊下、エントランスなどの養生を行って解体した産業廃棄物を搬出するのですが、傷や汚れを付けないようにシートやマットで覆って共用部分の破損を防ぎます。
あれっ??
マンションって買ったらどこまでが自分のものなの??って思いませんか?
建物だけで説明すると、玄関の中に入って部屋の中だけとなります。
コンクリートの壁や柱、梁、窓、玄関ドアなどは共用部分なので、古くてサッシ(窓)を交換したくても交換ができないです。
マンションやビルで1部屋だけサッシの色が違う建物って見たことないですもんね(笑)
機能的には替えた方が良いのですが、替えられないのでインナーサッシ(2重窓)とすることで断熱効果が高まる商品等があるので、そういった商品で対応をすると良いかもしれませんね。
でも、古いマンションだとサッシ(窓)はインナーサッシを付けて断熱効果が高まっても玄関ドアからの隙間風や結露の問題がクリアされないので、設計の段階でリノベーション会社とよく話し合うといいです。
また、よくある話なのですが・・・トイレをあっちに移動して、キッチンはベランダが見えるココが良いな~って感じの住設機器の移動について私もいつも悩んでいます。
まず、トイレは汚水管(トイレだけの排水配管)が部屋の中で1ヶ所しか設けられていないので、そこに接続しなければなりません。
床の高さを大幅に変えられるのであれば自由にはなりますが、なかなかそう上手にはいきませんので、計画をする時にトイレ位置は変えられないと考えておいた方がショックを受けないことと思います。
キッチンや洗面化粧台もですが、排水をするための配管に勾配をつけなければならないので実は自由ではありません。
頑張っても3M以内かな・・・
また、キッチンにはもう一つ困った配管があります。
それはレンジフード(換気扇)の排気管です。
トイレなどの換気扇の配管も同じですね。
築年数が古いと天井高さが低く、床から梁までの高さも低いので配管が外まで持っていけないことがあります。
既存も配管ならまだマシなのですが、もっともっと古いマンションだとプロペラファンが壁に付いていて、その四角形の穴からしか排気ができない場合があります。
色々なマンションがあるので、新しいキッチンやお風呂、化粧台・・って思い描いていると最新設備と建物が合わずそもそも断念しなければならないこともあるので注意が必要です。
じゃあ、どのタイミングでリノベーション会社にコンタクトを取ればいいのだろうか・・・
不動産系のリノベーション会社の場合だと不動産の話の時は不動産の営業さん、リノベーションの話になると建築の営業さんとコーディネーターが対応してくれるので、最初から全部伝えれば良いかと思います。
ただ、自分で不動産を見つけた場合は対応できない場合があるので確認が必要です。
建築系のリノベーション会社(弊社もこの建築系になります)の場合、一度内覧をして購入しようか検討し始めてから買い付けをするまでの期間が一番ベストだと思います。
何故かというと、後戻りができるタイミングだから。
不動産会社というのは不動産を販売する目的で営業をしています。
だから、その物件が売れればそれでいい。
だからこそ、お客様自身が「この物件で自分たちが思い描くリノベーションが予算内にできるのか」をリノベーション会社に見てもらった方がいいです。
リノベーション工事が始まると、
着手前
解体工事中
近隣住民の方に配慮しながら一つひとつ手作業で外していきます。
解体工事後
解体が終わった段階でお客様と現地打合せを行い、現状報告を行います。
すごく広くなるので、7割位のお客様がこのままで良いよ!って冗談を言ってくれます。
確かに、お風呂とキッチンがあればそれでいいかも・・・
床下配管工事
水、湯、追い炊き、ガス、排水など、家の中にはいっぱい配管や配線があります。
SOWAKAでは電気は家の中の分電盤から全てを取替えをしています。(二次側配線の全て)
給排水、ガスに関しても、専有部分に入ったところから先の配管類は全て新しく交換しています。
床組み
マンションは基本的に遮音としなければならないです。
弊社の場合、遮音の床組みだけでなく音が響かないようにグラスウールやロックウールを床下に敷き詰めて下階へ配慮する提案をしています。
造作工事中
だいぶ形が出来上がってきました。
この段階でお客様と間取りのチェックやコンセントスイッチの位置や高さの確認を現場で行います。
造作工事完了
この後にパテ処理をしてビニルクロスを貼ったり、漆喰を塗る作業へ移ります。
完成
着手から3ヶ月半~4ヶ月で完成となります。
設計期間からだと約1年~半年くらいかかります。
株式会社SOWAKAのリノベーションは基本的に白をベースに3色以上使わないようにしようとしています。
引っ越しが終わるとお客様の家具や家電が入るので建築があまり目立たないようにしたいです。
とはいえ、ビビットカラーを入れたいお客様にはちゃんとビビットカラーを入れて派手になり過ぎない、飽きがこない工夫を提案しています。
マンションリノベーションの場合は土日に作業しないように近隣対策をしています。
祝日に関しては作業日としていますが、解体工事は苦情が来てしまうのでお休みとしています。
私たちは建物を改修して作るのが仕事なのですが、この工事期間を通して左右、上下階の住民の方々へなるべくコミュニケーションをはかり、建物の完成と共にご近所さんとのお付き合いもお客様へ引き渡すようにしています。
近所の人からしたら、どんな人が引越してくるか分からない不安があるので、まずは印象が良い工事をする心掛けを続けたいと思って進めています。
【まとめ】
リノベーションとは、
・ここ15年くらいでメジャーになったビジネス用語
・リノベーション会社は不動産会社が親会社のケースが多い
マンションを中古で購入する場合、
・駅や学校から近いというだけではなく、周囲の環境やマンションの外構やエントランスなどをチェックしておく
・管理費の滞納者がどれだけいるのか提示をしてもらい判断をする
・内覧をする際に住民が居たら「あいさつ」をしてみる
・なるべく古くても新耐震基準(1981年6月)以降に建てられたマンションを検討する
・耐震が気になる方は2000年6月に改正された建築基準法にて建てられたマンションをお勧めします
マンションのリノベーションをする場合、
・窓(サッシ)や玄関ドアは共用部分なので変えられないことを覚えておきましょう
・水廻りの位置の変更はできるが、3M位が移動の限度。トイレはほぼ変更できない
・マンションによっては工事申請が3週間以上前に提出しなければならない場合がある
株式会社SOWAKA
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