半世紀の集大成 引退に立ち会う
この記事は、2022年12月27日に公開したブログのアーカイブ記事です
こんにちは。
名古屋市や尾張旭市周辺でリノベーションを通じて暮らしの提案をしているSOWAKAの杉山です。
弊社の設立時からの大工さんが無事に引退を迎えました。
2~3年くらい前から引退の時期を話し合い、勤務日数も週5日に減らしてタイミングを図っていました。
御年72歳。
造作大工としては50年以上のキャリアで、私の師匠でもある。
私が学生だった18歳の時に、水道工事店を営んでいた父に連れられて、元請け会社の現場で初めて会ったのが最初でした。
建築工学科に入学したばかりだったので、何も分かっていない私は、目の前にある木造住宅を見るだけで精一杯でした。
本当だったらそこで優しい大工と出会って色々教えてもらって・・・という話の展開だと思うけど、そうでは無かった(笑)
挨拶をすれば返してくれる程度だったし、まず何を話していいか分からない杉山少年だったのでほとんど話していない。
当時、建設業はバブル崩壊後で不景気。
そして今と真逆なのですが、人が滅茶苦茶余っていた。
若い20代の職人も現場監督もいっぱいいました。
ホント余っていた(笑)
仕事が少ないのに熟練から見習いまで職人は大勢いて、若い世代なんて邪魔な存在なだけだった。
特に仕事を取ってくる訳でもない設計や現場監督なんて、職人からはイジメられ放題。
仕事が薄いから吐け口でしたね。
(今だったら訴えられるほど度が過ぎていました。だから若い人たちは給料も安いしキツイから建築から離れていきましたね。)
だけど、親方連中はカッコ良かったです。
今の歳だと80歳~90歳くらいだと思う。
実際に私が就職活動をしている時は就職氷河期の真っただ中。
そんな時代背景の中で、私は名古屋市の中堅ゼネコンに入社してビルやマンションを作る部隊に配属され、現場監督の卵になりキャリアをスタートさせました。
そしてその15年後日本は大きく変わり、ズルい人と耐えることができた人が世の中を動かしていました。
リフォームブームと万博のおかげで仕事はありましたが、価格競争で建設業は様変わり。
大工さんだとバブル期が1日35,000円
私が働き始めた25年前で20,000円
20年前のリフォームブームで15,000円
リーマンショックで12,000円
今は職人さんがいないので、1日25,000円~28,000円にまで急上昇しています。
クロス屋さんも、リフォームブームの時はSP級で1平方メートルあたり450円(材料込み)まで下がって、現在は1,000円近くまで戻ってきている。
手に職があるのに責任も少なく、誰でもできる仕事の方が給料が良いのであれば、みんな楽な方を選びたくなりますよね。
だから前述したズルい人と耐えることができた人(自分の仕事を全うした人)って言い方をしました。
日本人は損得勘定で動く人ばかりになってしまった。
それは経営者も、従業員も、お客様も。
技術屋ってのは損得勘定ではないんです。
世の中がおかしい。
今の世の中、昔ながらの職人ではクレームが来てしまう。(これは分からないでもないケド)
丁寧な話し方でマナーを守り、身なりが良く身元がちゃんとしている人。
いま70歳以上の人はこの20年間はすごく苦労したと思う。
携帯電話は使えないといけないし、マナーも叩き込まれる。
今まで建設業というのは一見するとやや横柄な人が多かったのですが、本当は優しくて忍耐強くて、仕事に責任を持って取り組む人が多かったのです。
けれどカスタマーサービスを向上させた結果、やや横柄な人が一生懸命に丁寧語を使おうとしていました。
ストレスが溜まったでしょうね(笑)
その吐け口は若い現場監督だったのですが、元請け会社も営業活動をメインで行っている会社が多くなって、ザ・建設会社!という会社が少なくなりました。
元請け会社も職人から指導という名のパワハラ、モラハラだったり、本当の指導すら受けられなくなってすごくレベルが落ちました。
だから吐け口の無くなった職人さんたちは無責任になる選択をした。(今の50代から60代)
なんだか、全てが悪循環ですよね。
さて、そんな建設業ですが、
私の師匠はすごかった。
出会えて本当に良かったです。
口数はとても少なく、相手が本気じゃないと絶対に仕事は教えない。
愚痴と悪口を言わず、指示を受けたことを終わらせようと動く一匹狼でした。
今から14年位前のこと。
木造住宅の大型リフォーム(現リノベーション)を弊社が請けて木工事を進めていた時、いつもは指示に従ってくれる師匠なのに指示に従ってくれない。
師 「杉山くん、それは俺ではできんよ」
杉 「なぜ? こうやって、こうすれば作れるはずじゃないですか??」
師 「それはそうだけど、俺はできん」
杉 「えっ?? なぜ分かっているのに出来ないなんて言う? 1時間あればできるじゃないですか?」
師 「そういう事を言ってるんじゃなくて、作ればいいってのは俺はできん」
杉 「・・・・」
「わかりました。ちょっと考えます」
師 無言で頷く
私は建築知識の中でも「施工管理」に特に自信があったから、会社を辞めて独立して開業しました。
どちらかというと、営業って仕事はとても苦手(笑)
何度も書きますが施工管理には自信があった。
師匠は絶対に答えは教えてくれる雰囲気ではなかったから、現場の帰り道、事務所に戻ってから、家に帰ってから・・・
ずっと意味が分からず考えていました。
「もしかしたら、何か気に入らなくてやりたくないだけなのかな・・・?」
「意地悪だなぁ」
ってずっと思いながらも考えて、答えが見つからず翌日を迎えました。
何だか考えても答えが見つからず、頭の中は「クソジジーっ!」ってなっていたので、朝早く起きて師匠が来る1時間前から現場の掃除をしていました。
で、師匠が8:15に現場に来て車から降りてくる姿を見た時に意味が分かったんです。
いつも無表情のまま「おはよう」だけなのに、今日は少しニコニコしている。
えっ?何で喜んでる??
杉 「おはようございます。 昨日の話しって掃除と下地の組み方だったんですね。」
師 「そうだ。 すぐ壊れるものを俺は作りたくない。 お客の家だろ??」
「自分で掃除して分かっただろ。」
杉 「はい。 組み方を教えてください。」
師匠は2つ言いたかったんです。
私は現場監督出身で、綺麗に現場掃除をするのが得意なのを知っている。
現場を掃除するっていうのは、綺麗に作るために不可欠であると共に労働災害を減らす。
現場が雑然としていると作業性が悪く転んだりしてケガもする。
特にリノベーションの場合は解体しながら新旧を繋ぎ合わせていく作業が多いので、丁寧な仕事をする為には繋ぎ合わせ部分も綺麗に掃除をして繋がないと、しっかり固定されなかったり隙間も発生してしまう。
新築と違って全て手作業だから、とても手間がかかる仕事でもある。
それを分かっていながら、現場へ来て作業指示だけして次の現場へ向かおうとする私の姿にヘソを曲げた訳だ。
職人を大切にする気持ちも大事。
そしてもう一つが、モノの考え方が完成形がベースとなっていたこと。
完成形というのは私たちにとっては当たり前のことで、いわゆる「ハリボテ」であってはならない。
お客様が長く大切に使う家だからこそ、お客様が見ている今の目線ではなく、もっと先の10年後のお客様の目線で物事を捉えないといけない。
確かに、後で考えると私の指示は表面的なものだったし、師匠がする作業が遅く感じてしまうものだった。
会社を設立してイケイケな感じに見えたのかもしれない。
お金に走っているように感じたのかもしれない。
私の作業指示だと1時間で終わる。
でも実際には3時間かかりました。
今でも弊社は下地を作り終えるまでにすごく時間をかけます。
見えなくなってしまう部分だけど、見えている部分だけを作っている訳ではないってことを師匠から教わり、それがお客様のためにやるのが当たり前だと。
見えなくなる部分だから手を抜いたり、ある程度にすることでコスト削減はできる。
同じ工務店経営者仲間からは「そんな大工いらんだろ」とか「そりゃ、合わんわ」とよく言われていました。
でも、どちらが正しいのか分からず師匠にその事を相談すると
師 「あの社長たちは杉山くんのことを分かってないし助けてくれないよ?」
杉 「・・・」
師匠の考え一本で進めようと思いました。
師匠同様に私も一匹狼みたいな感じなのは、その会話があったからかもしれないです。
同じ地域の建築屋は互いに飲み会とかで情報交換をしたり、仕事を出し合ったりもしているのですが、私は一切やめてしまいました。
会合などで異業種の人と会っても仕事の話はほとんどしない。
建築っていうのがお金儲けであるならば面白くない・・・
僕らはお客さんの家を作っている。
自分たちができるスピード、仕入れ、進め方、工法を基に見積りを作って、お客様から請けている訳だから、外野が色々なことを言ってこられても無理しか生じない。
弊社が値引きをして受注しないのも同じことです。
まともに計算をして見積りを作っているのだから、値引きをしてしまうと何かに無理が出る。
時代と合っていないのかもしれないけど、時代が変なだけ。
お客様もちゃんとした建物を作ってほしいと願っているのに、根拠が無い値引きをしても恐いだけですもんね。
職人不足から職人の単価も上がって、資材も高騰してしまっていますが無駄の無い様に計算をして見積書を作る。
お客様のために時間をかけて建築をする。
この二つは新たにやろうとするとコストがかかるから時代に合っていない。
でも、特命であったり、続けていれば究極のコスト削減と顧客満足に繋がると思う。
師匠は五十数年間、営業をしたことがない。
でも、大工をやりながら上手くいった現場、揉めて大変なことになった現場、色々見てきている。
私に教えてくれたのは、お客様に対する気持ちと建物との向き合い方だった気がする。
弊社の現場監督が現場に居ても私は呼ばれる。
代表取締役とか関係ないですからね(笑)
だから今でも真っ白になりながら掃除もするし、柱とか担いで運びこんだりもしている。
さすがに、会議前でスーツを着ている時には無茶は言わないけど、スーツでも掃き掃除はする。
師 「おいおい、杉山くん。 綺麗な服が汚れるぞ。」
とか言いながら喜んでくれる。
私もスーツなんてどうでもいいと思っているし、汚れたら会議に行くのをやめようかな・・・程度に考えているくらい現場が第一。
最後の日、初めて写真を撮りました。
ちょうどお客様も現場に来てくれたのでお母さんと3人で記念に。
ホントに記念になりそうです。
昔の人だから嫌がるかな~って思ったりしましたが、花束も受け取ってくれました。
同年代の人達と仕事をした方が楽しかったかもしれませんが、息子さんと同じくらいの歳の私と一緒にやってくれてありがとうございました。
私は教えてもらったことを次の世代に受け継ぎます。
この考え方は建設業に限った話しじゃなく、今の日本に必要なことなのかもしれません。
時代に合っていないんじゃない、ズルい人もいるけど、お客さんってみんな師匠みたいな人に作ってもらいたいんだ。
自分の仕事を全うしたい。
本当に良い大工さんと知り合えて、一緒に仕事ができて良かったです。
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